エピローグ case0:「救済」


今日はどうなったかな……?


……ふむ、六十億人ほど死んだか。
星一つ分くらいだな。
まあ今に始まった事ではないが。
これで少しぐらい静かになるだろうか。
例の手紙を何枚出してもあそこの生物には影響が無かったからな。
人間、だったか。

全く、何故私にばかり救いを求めるのか。
勝手に全知全能と崇められたりしても困る。
せめて目の前のものにすがろうとは思わないのだろうか。
どうして手の届かない所にいる私にすがる?
五月蝿くて仕方が無い。


現在、宇宙は未だ膨張を続けているようだ。
どんどん生命は増えるだろう。
それを全て観ると言うのも楽ではない。
さらには全ての生命の声までもはっきりと聞こえると言うのだからたまったものではない。

せっかく創りだした生命達に自由を与えたというのに、
まだ彼らの声は神を呼ぶ。
彼らの声は神にすがる。
彼らの姿は神を求める。
彼らの心は神に縛り付けられている。

もうやめろ。
やめてくれ。
お前達は自由なのだ。
運命など自分達で勝手に考えてしまっただけだろう。
運命はあらかじめ決まっているだと? 私はそんなもの定めてなどいない。
生命全てに運命を定めるなどそれこそごめんだ。
数が多すぎてやってられない。
分かってもいないことを運命などと言って神を頼るんじゃない。
自分で行動しないからではないか。
自分で動かないから結果を変えられないのではないか。
お前達が運命と名付けた未来は、
粘土よりも変形しやすい。
水よりも形が無い。
風よりも早く訪れる。

「今」は「未来」
「今」は「過去」
「未来」は「今」
「未来」は「過去」
「過去」は「未来」
「過去」は「今」

だが、決して「運命」ではない。

今は未来が訪れた結果。
今はいずれ過去になる。
未来が来ると今になる。
未来はやがて過去になる。
過去はかつての未来が通り過ぎた結果。
過去は今の積み重ねの結晶。

運命などでこれらを創る事はできない。
運命と言う言葉が築き上げるものは、諦めと束縛である。


それなのに、ありもしない運命を呪い、神に助けを乞う。
彼らは頭が良いのか悪いのか量りかねる。

そういえば今日死んだのは原因が「戦争」だったか。
やはり頭は悪いのだろうか。
過去にも何度か繰り返してその悲惨さも分かっていただろうに。
いつになれば完全に無くなるのかと思ってしばらく見ていたが、
なんのことはない。
彼らの方が先に消えてなくなってしまった。

なんにしても、もうこれ以上神を求める声などないだろう。
やっと騒音から開放される。






「神様! 助けて!」


!?
まだ生き残りがいたのか?

……違う! 別の星だ!
そうだ。まだ言語を持つ生命体はいくらでもいる。
また助けを求めるやつらが出はじめたらしい。

やめろ! 五月蝿い! 私は何もしない!

「助けて! 助けて! 助けて!」
「助けて! 助けて! 助けて!」
「助けて! 助けて! 助けて!」

やめろ! やめろ! やめろ!
黙れ! 黙れ! 黙れ!
うるさい! うるさい! うるさい!

いつもこうだ!
静かになったと思うとすぐにぶり返す!
もう頭が痛い。
静かにしてくれ。

いつになったら終わるんだ。
何処まで彼らは私にすがるんだ。
もう限界だ。
これでは眠る事さえもままならない。
どうすればいいんだ!

誰か……。




誰か! この神を助けてくれ!


神がどれだけ叫ぼうとも、その声は誰にも届かない。






果てしなく宇宙が広がる。
そこにある数多の星に生命はどれだけいるのだろうか。
その中のどれだけが人間と同じ知能を持ち、言語を持つのだろうか。
その中のどれだけが、どうしようもない窮地に陥るのだろうか。
その中のどれだけが神に助けを乞うのだろうか。




答えは、神にさえ分からない。



絶体絶命
END

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