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第九話
Treasurehunt
act2:
Time to kill
「ここ……どの辺りだ?」
三人は小さな無人島で休憩を取っていた。
「今は大体半分ぐらいです」
「くろさん、大丈夫ですか?」
「こっちの台詞だよ。大丈夫か?」
「って言うかなんでくろさんが平然としてて私達の方が疲れてるの?」
茜も杏も疲れが顔に浮き出ている。
それとは対照的に黒人は特に疲れた様子も無く、食糧を探している。
「六時間っつっても休憩の時間を入れたら相当になるのを忘れてたな。
今日中には着けんかも」
「太陽ももう西に傾いてますね」
「あれか、太陽に向かって走れーってやつ」
「あれは飛び跳ねてるって感じだったような……」
「なんにせよ、野宿の可能性が高いみたいだけど、お嬢様にはキツイか?」
「そんな言い方しないでくださいよ。大丈夫、お祖父さんのためだもの」
「それならいいけど」
めぼしい食糧も見つからず、黒人は出発すると二人に告げた。
疲労の残る二人だったが、とりあえずは従った。
「もうちょっとなんかありそうな所に行こう。二人とも疲れてるんならそこで夜を明かす」
「ご……ごめんなさい……」
「まあそれが普通の人間だからな。しょーがねーよ」
黒人は二人を脇に抱えて再び海に出た。
「動きました! 三人です!」
「ご苦労。引き続き監視を続けろ」
「はっ!」
鐘雪は座席から動かず、そう命じた。
「わざわざ案内してくれてご苦労な事だ」
「彼らの会話から行き先が分かりました。ここから西に二百キロの地点かと思われます」
「そうか。それならここからは我々でそこをじっくり探して見るのも悪くない。
彼らはもう用済みだ。次に上陸した島で片付けておいてくれ」
「では、橋田を向かわせます」
「それがいい。『夜』は奴の独壇場だからね。部下もつけさせておこう」
「ただちに手配します」
女は携帯電話を取り出した。
「あの島なんかいいんじゃないか?」
「そうですね。もう日も暮れますし」
「じゃ、行くぞ」
黒人はスピードを落とした。
両腕に抱えた二人の少女はぐったりとしていた。
「おーし、着いたぞ。食えるもん探してくるから休んでな」
「私も行きます」
「杏ちゃんは茜嬢の護衛についててくれ。三十分ぐらいで戻るから」
「分かりました。気を付けてくださいね」
「そっちもな」
黒人は森の中に入って行った。
「橋田さん! 男が森に入って行きました!」
「あ~? わーったよ。喚くな」
「どちらから行きますか?」
「女はお前らが拘束しとけ。男の方は俺がやる。
女は殺すなよ」
その言葉から橋田が何をするつもりなのかは部下達にはすぐに分かった。
「こんな名もねぇ島がテメェらの墓になるなんて、お気の毒にな」
「上陸します!」
「お、あったあった。結構いろんなもんが生ってるな。これなら夜をしのげそうだわ」
黒人は森の中を歩いていた。
様々な木が生い茂り、ただでさえ弱まっている日光を遮っている。
夜になると闇が一層深まった。
「さて」
黒人が息を吐いた。
「食糧の確保はこれでよし、と。後、は!」
ずどっ
突然黒人が目の前にある木を殴った。
その木は発泡スチロールのように黒人が殴った部分から折れ飛んだ。
「女の子二人の安全の確保、だな」
「ははっ、よくわかったな」
「伊達に永いこと生きてる訳じゃないからな」
「長く? テメェどう見てもガキじゃねえか! ……まあいい。とりあえず死んでくれや」
「やなこった」
「なら、俺が殺すしかねーわなぁ!」
そう言ったかと思うと、橋田は黒人の目の前から姿を消した。
勿論逃げた訳ではない。
身を潜めただけ。
だが、真っ暗な森の中、ほぼ真っ黒な服装の黒人を見つけるのは簡単な事ではない。
そのはずだが。
どすっ
「!!」
黒人の足元にナイフが刺さった。
「俺には夜も昼も関係ないんだな、これが!」
声のした方を見ると、一瞬だけ何かが光った。
黒人はそれが何かはこの状況を見てすぐに理解した。
「暗視スコープか」
「よく分かったな! その通り! だが、俺が作ったスコープは特別だぜ!」
「ほー、どう特別なんだ?」
「教えるわけねーだろ! 馬鹿が!」
そう言って橋田はさらにナイフを投げつけた。
今度は黒人の両足目掛けて。
「茜ちゃん、絶対に動かないでください」
「こ、こんなに沢山、どうするの!? 殺されちゃう!」
杏と茜を取り囲むのは、数にして約十人と言ったところか。
当然、各々拳銃を構えて。
暗くてよく分からないが、全員おそらく藍色のスーツを着ている。
「可愛らしいお嬢ちゃんがたった二人でこんな所で何してるんだい?」
「おじさん達と遊ぼうよ」
杏がそれに応えた。
「お断りします。どうしても、と言うのなら……」
そこまで言って、険しい目つきになった。
「なんだい? 恐い顔して。大人しくした方が身のため……」
全て言い終わる前に、すでに杏の掌底が一人を吹き飛ばしていた。
「容赦しません」
杏の姿が男達の視界から消える。
と思うと、もう一人が夜の海に向かって吹き飛んだ。
男達は慌てて周囲を見回した。
「どこだ! 探せ! ……ぐおっ!?」
さらにもう一人が崩れ落ちた。
「あと七人!」
急に屈んだかと思うとその体勢のまま腕を背後に伸ばした。
その手には倒れている男から奪ったのか、拳銃が握られている。
「なんだ!? 何を……」
ぱんっ
乾いた音が響いた。
杏が発砲したのだ。
弾丸は一人の脚に命中した。
「セコい攻撃だな。闇に紛れて命を狙うなんて」
黒人が十本程にもなるナイフをその手に持っている。
どちらかと言うと抱えている、という感じだが。
そのナイフを地面に全てばら撒くように捨てた。
「ほー、よく無傷でいられたもんだ」
「この程度で傷つけられると思ったのか?」
「面白い! ならこれ全部、避けられるか!」
今度は一本一本なんてものではなく、五、六本のナイフが同時に黒人に襲い掛かった。
だが、黒人は飛んできたナイフの一本をいとも容易く掴むと、それを使って残りのナイフも全て叩き落とした。
「そらそら、油断するなよ! まだまだ飛んで行くぜ!」
その言葉通り、次々とナイフが四方八方から投げられた。
どうやら闇の中を移動しているらしい。
しかし、上空ほぼ360度をナイフに囲まれていても、黒人はその場を動かない。
「どうした! もう諦めたか?」
「冗談。こんなもん、避けるまでもねぇよ」
黒人はナイフを逆手に持ち替えた。
さらに、いつの間にかもう一本のナイフを左手に持っていた。
そちらのナイフは順手のままだ。
「『鎌鼬』」
両腕を真っ直ぐ伸ばしたかと思うと、凄まじい勢いで回転した。
「な……!?」
旋風が橋田の体を吹き抜けた。
一瞬おいて、投げたナイフが全て弾き飛ばされて、周囲の木々に刺さった。
「今のは……なんだ」
橋田が尋ねた。
「教える訳ねーだろ。馬鹿が」
「……」
と。
橋田の体にいくつかの線が走ったかと思うと、そこが瞬間で朱に染まった。
やがて、液体がそこから噴出した。
体勢を崩し、近くの木に手を掛けると、その木にも線が走っていた。
やがて橋田が体重を掛けるとその木は線の部分から上下がずれて大きな悲鳴のような音と共に倒れた。
ほぼ同時に、周りの木々も次々倒れていった。
「特別製のスコープとやら、役に立たなかったな。
大方生き物の位置を特定できるとかそんなもんだろ?」
黒人の読みはほとんど当たっていた。
橋田のスコープは熱反応から人間を感知する事ができる。
「ガキが……。殺してやる……」
血が出ているのを気に止めないかのように、橋田は体を起こした。
そして、両手にナイフを握った。
橋田は今度はナイフを投げる訳ではなく、その手に持ったまま黒人に突っ込んで行った。
全くと言っていい程音が無かった。
だが、かなりのスピードだった。
橋田が夜、強さを発揮するのはスコープの為だけではなかった。
ほとんど音を立てることなく敵に近づき、首を落とす。
ナイフを投げるというのは、彼にとっては遊びに過ぎない。
もっとも、今回は遊びが過ぎたようだが。
そして、今回も無音のまま、敵に悟られることなく首ナイフを掛けたはずだった。
「見えてるのはお前だけじゃねえんだよ」
黒人は首に掛かったナイフを指で摘んだ。
たったそれだけのはずなのに、ナイフは持ち主を失くしたように動きを止めた。
その力は橋田の予想外ではあった。
しかし、それでも自分の勝ちに変わりはない。
もう片方の手に握った武器をこいつの心臓に突き立てれば。
間髪入れずナイフを突き刺そうとした。
真っ直ぐナイフを前に突き出すだけ。
それだけで相手は動かなくなる。
それなのに。
「見えてるって言ってんだよ」
黒人はそのナイフをも摘んでいた。
黒人が摘んでいるのは刃先だったが。
やはりこちらも全く動かない。
呆気にとられる橋田からナイフを奪うと、強烈な蹴りを腹部に喰らわせた。
橋田はその力の掛かる方向に従って真っ直ぐに吹き飛んだ。
途中、木などの障害物があったが、それも問題とせず、本当に真っ直ぐ吹き飛んだ。
「この小娘、拳銃を使い慣れてやがる!?」
男が拳銃を構えたが、その先に杏の姿は無く、代わりに闇が広がっていた。
「上だーっ!!」
その声に上を見ると、月を背後にして、少女が地面に頭を向けた状態で空中にいた。
その目は大きく見開かれている。
まるで獣のような目だ。
狩をする時の獣の目。
杏は天地逆転のまま両手に構えた拳銃を撃つ。
二発の銃声が響いたかと思うと、弾丸が男の肩と脚に一発ずつ当たった。
「あと一人!」
杏が残った男を睨む。
「うわあああぁぁ!! くっ、来るな!」
男が無茶苦茶に銃を撃った。
砂浜に穴がいくつも出来る。
「あうっ!」
弱々しい悲鳴が上がった。
「しまった! 茜ちゃん!」
茜の脚に流れ弾が当たっていた。
我に返った杏が茜に駆け寄る。
それをチャンスと見てか、男は落ち着きを取り戻し、杏に銃を向けた。
発砲しようとしたその時、森の中から男が吹き飛んできた。
それに驚き、男は狙いを外した。
吹き飛んできた男はそのまま海まで飛んで行き、やがて遠くで水柱が上がった。
「な、なんだったんだ、今のは!?」
その声の後で黒人が森から出てきた。
その目は先程の杏のように大きく見開かれていた。
しかし、黒人の場合は、獣と言うよりも殺人鬼と例えた方が分かりやすい。
「駄目だなー。夜になるとどうにも抑制が効かなくなる」
よく見ると黒人の瞳の色はいつものような黒ではなく、満月のような金色になっている。
それが一層不気味さを引き立てていた。
橋田でない男が森の中から出てきた。
では、つまりさっき吹き飛んできた男は……。
「橋田さんが……!?」
「こんなとこまでご苦労なこった。だが、」
黒人がにじり寄る。
「女の子に銃を向けるなんて、やりすぎだったな」
男は慌てて拳銃を黒人に向けた。
「来るな! 一歩でも動けば撃つからな!」
「ほー、どれどれ」
黒人は平然と一歩を踏み出した。
「ひっ……」
銃声が響いた。
弾丸は真っ直ぐに目の前にいる男に放たれたはずだ。
だが、目の前の男は親指と人差し指で何かを掴んでいるような形を作ってまだ向かってくる。
何の冗談だろう。
「気を付けろよ。『夜』の俺には、特にな」
指で掴んでいるのは、弾丸だった。黒人はそれを男に向かって弾いた。
「ぎゃあああ!!」
その弾丸が、拳銃から発射された時のままのスピードで男に返された。
それは男の肩に当たった。
男が肩を押さえた瞬間、黒人の鉄拳が顔にめり込んでいた。
「茜嬢は大丈夫か?」
「弾丸は貫通してるみたいですけど……」
茜の顔は血の気を失っている。
「くろさん、治してあげてください!」
杏はすがるような目で黒人を見た。
先程までの獣のような目とは対照的だ。
「今夜は無理だ。明日になったらすぐ治してやる」
「今すぐには無理なんですか!?」
「今は抑えが効かないからな。それじゃあ賭けにも何にもならずに茜嬢が死んで終わりだ」
「でも、このままじゃ明日にはもっと危険な状態に……」
「だ……大丈夫……」
茜が起き上がった。
「駄目ですよ! じっとしてて!」
「包帯か何か巻いておけば……」
「そんなことしても失血死しちゃいます!」
「これぐらいで死んだりしたら、お祖父さんに笑われるわ」
黒人が大きく息を吐いた。
「しゃーねぇ、やってみるか」
「ホントですか!」
「結構精神的には強いから、速攻でやればなんとかなるかも」
「何の話……?」
「今からおまえさんを治す。ただ、結構な負担があるから、絶対に気ィ抜くな」
「え……」
問う間もなく、例の「圧力」が生じた。
だが、いつものものよりもさらに「圧力」が強い。
茜はその「圧力」で、気を失いそうになった。
だが、意地になって意識を保っていた。
「そらっ!」
黒人が茜の撃たれた腕に手をかざすと、「圧力」は消えた。
「ふう、済んだぜ」
茜が薄れた意識の中、腕を見てみると、傷が始めから無かったかのように消えていた。
「あれ……?」
不思議に思った茜に黒人が、
「闇形絶歌 『治』の調」
そう教えた。
「致命傷レベルの怪我でも死んでなけりゃこれで全部治せる」
「そんなことが……!?」
「当然、ただじゃないぜ」
「どういう事……?」
「これで治すってのは傷の修復を高速で行ってるに過ぎない。
つまり、この治療を受けた者は、それだけ寿命が縮む」
「!!」
「怪我の自然な治癒に掛かる時間と同程度の寿命が、な。
今回は見たとこ全治何ヶ月か掛かりそうだったから、それだけおまえさんの寿命は縮んだって事だ」
「……」
「悪かったな。何も説明しなくて」
「ううん、きっとあなたがいなかったら寿命なんて関係無しにここで死んでた。
……ありがとう」
黒人には意外だったが、すぐに微笑み、
「体力までは戻らないから、今日はさっさと寝ろよ」
そう言った。
やがて三人とも眠りに着いた。
「くあーっ、着いたー!」
翌日、早々に島を発った三人は、昼になる前には目的地に着いていた。
その島は、やたら高い山が中央にそびえ立つなかなか大きな島だった。
「ん?」
黒人が怪しむような顔をした。
その視線の先にはスーツを着た男がいた。
スーツの色は、藍色。
「あれは……!」
杏と茜が驚いている内に黒人がその男を気絶させた。
「奴ら、もうここまで来てやがるな」
「そんな、どうして!? 地図も無いのにここが分かるはずが……!」
「分かったから昨日襲ってきたんだろうな」
「どうしよう……、これじゃあ……」
しばらく考えた後、黒人が呟いた。
「二手に別れるか……」
「二手に……ですか?」
「うん、決めた。二手に別れて行こう。宝探しと、殲滅」
「殲滅?」
「ああ、奴らを全滅させる」
「そんなの、たった三人じゃ……」
「三人じゃない。俺一人でやる」
「そんな無茶な……!」
「茜ちゃん、大丈夫。くろさんを信用して」
「でも……!」
「平気だって。杏ちゃん、茜嬢は任せたぞ」
「はい!」
「どうしようもない時はしょうがない、アレを使いなよ」
「分かりました」
茜は納得いかないといった様子だったが、渋々承諾した。
「約束して。絶対死なないって」
「必要無い。俺は死なないからな。……行ってくる」
杏と茜を残して、黒人は猛スピードで何処かへ行ってしまった。
「行きましょうか」
杏と茜も宝物に向かって進み始めた。
「奴らも島に到着したようですね」
まるで当たり前だと言わんばかりの平然とした口調で女が言った。
「ふふ、橋田を倒すとは、なかなかやるようだね。
だが、島には我々を含めて百五十人。生きて出られる可能性は……零だ」
鐘雪はただ不気味に笑った。
第九話
END
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