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第二十四話
アヴェスタ
3:Conclusion「Armaiti V.S.Infinity」






「何も怖がる事は無いだろう。直接お前を吹き飛ばす様なものじゃない」

「前の攻撃も……その前の攻撃も……確実に致命傷の筈……」

「俺達はちょっとばかし頑丈だからな。それでもダメージはちゃんとあるぜ?」

確かに霧玄は頭をはじめ、身体のあちこちから出血している。
特に頭部からの出血が酷い。
それでも、霧玄は尚も余裕があるように笑う。
飛び切り邪悪に。
それがさらに恐怖を煽る。

「さあ、お喋りは終わりだ。お前の『正体』見せてもらおう。」

霧玄が銃を懐に収めた。
そして、目を閉じ、全身の力を抜き、自然体になった。


「『追知八方』 対象、『呼吸』」

キンッ……と一瞬聞こえたか聞こえなかったかのような鋭い小さな音が聞こえた。
かと思うと、霧玄が目を開いた。
その顔は、笑みを浮かべている。

「そうか。やはりそうか。やはりお前はそうだったんだな」

霧玄が、ふと「アールマティ」から目を離した。

そして、「アールマティ」とは全く関係の無い方向に歩き始めた。

「何故、何発撃ち込んでも、ダメージの一つも見受けられないのか?
 大地の守護神なだけあって、身体も硬いのか? 違う。
 砂や岩を纏って攻撃を防いでいたのか? これも違う。
 なら、お前は、何なんだ? 何で出来た、何者だ?
 答えは、これだ」

霧玄が立ち止まった。

「そ、其の場から、離れろ!」

「アールマティ」が、いやに焦った声で言う。

「『認めた』な。お前が、ここに、この場所に潜んでいると!」

「今すぐ、そこを、どけええぇぇぇ!」

「アールマティ」が大地と共に霧玄に襲い掛かる。
それは、集まり、塊となって、猛スピードで迫った。
慌てる様子もなく、霧玄が銃を構える。

「大砲の弾に、銃の弾丸が太刀打ち出来るものかあぁぁぁ!」

「まだ分からないのか? 俺にそんな概念は無ェって事が!
 分からないのか? 『時間亡失(ロスト・エイジ) ・Infinity 3rd』に喧嘩を売るって事が、どういう事なのか!」

霧玄が懐から異常な量の弾丸をばら撒いた。

「『時間亡失(ロスト・エイジ) 』……『Infinity 3rd』……!?」

先程のように、カートリッジに収めたままでは無い。
完全に、裸のまま、弾丸を空中に放り投げた。

「一!」

一発、弾丸を撃った。
それは、宙にばら撒かれた弾丸を弾きながら、明後日の方向に飛んだ。
すると、弾かれた弾丸の火薬に火が点き、一斉に土の塊目掛けて発射された。
それがさらに他の弾丸に火を点け、放たれる。

「二!」

さらに発砲する。
計算されたかの如き動きで、夥しい量の弾丸が、土の砲弾を襲う。

「三!」

止めとばかりに発砲する。
それは、中央に固まってばら撒かれた弾丸に直撃し、
ボーリングで弾かれたピンのように、ビリヤードのブレイクショットのように、勢い良く弾けた。


たった三発の発砲で、土の砲弾は、子どもが作った泥団子を落としたように砕け散った。
「アールマティ」も、同時に粉々に砕けてしまった。

「あーあー、これで撃ち止めだ。もう一発も弾丸が無い」

霧玄が妙にわざとらしく言う。
すると、土中から、「アールマティ」が再び姿を現した。
しかし、完全な姿ではなく、何かを呟いている。

「馬鹿な……何故、何故……」

「簡単な話だ。お前は俺より弱えェ。それだけだ」

「弱いだと……! この私が、弱いだとおおおぉぉぉぉ!?」

大地が揺れ、部屋の土が隆起し、霧玄を押し潰そうとする。

「はッ! それしかできねェのかよ! そんなだから弱えェってんだよ!」

「黙れぇ! もはや弾の尽きた貴様に、この攻撃がかわせる筈が……!」

「弾丸ならあるさ!」

霧玄は銃をしまった。
そして、真下に向かって、拳を振り上げた。

「や、やめっ……!」

「俺の、この拳だ!」


どずんっ、と何かが爆発したかのような音がした。

霧玄に襲い掛からんとした何トンもの土は、隆起したまま、静寂した。

そして、霧玄の拳の先にあったものは―――。



「おやおや、絶世の美女『アールマティ』の裏に潜んでいたのは、醜いブ男だったか」

霧玄の拳は、土中に潜んでいた小太りの男の鳩尾を正確に突いていた。

「自分は隠れて観戦か。卑怯な事この上ねェな」



「な、何故……この……私の……居場所……が……」

「それが、俺の能力だ。俺が決めた『対象』を察知し、直接脳にインストールする。
 言ってみりゃ人間レーダーだな。さて、約束だ。お前の……」

ふと、男の顔を覗き込むと、泡を吹いて気絶してしまっていた。

「あらら、本名を聞きそびれたな。まあいいか」

立ち上がり、砂を払って、霧玄は城内へと向かった。

「……どっちに行きゃいいんだ?」






「麗ちゃん、随分先に行っちゃったのね~」

「悠長に言ってられへんな。当然ながら、この様や」

二人の目の前には、五つの通路が分かれて伸びていた。

「麗嬢ちゃんがどの道に向かったかも分からん。あの子は突っ走りやすいなー、ホンマ」

「じゃあ、どうするの?」

「ん~、しゃーない、こうなったら、全員バラけよか」

「皆でそれぞれ杏ちゃんを探すのね」

「そういう事や。てっぺん言うてもえらい広そうやしな。ほなら俺はこっちに進む」

「じゃあ、あたしはこっちかな」

二人とも、バラバラの道を選んだ。
別れ際、リョウチが言った。

「死ぬなや。愛してるで」

「あたしの方が、愛してる」

のんびりとした口調で、ミヤが答えた。





「あらま、もう終わりか?」

その通路には、黒人だけが立っていた。
それ以外は、全て床に這いつくばって呻いている。

「もうちっと頑張りなよ、あんたらも。こんだけいて十分も持たないなんてさ」

「な……んで……こん……な……」

「まあ安心しなよ、全員生きてっから」

そう言い残して、黒人は先へ向かった。



黒人がいなくなってから、男が一人、顔を上げた。

「……いてて……なあ、気付いてたか?」

その男が声をかけた男も、それに応じた。

「……おー。ありゃ人間じゃないな。バケモンだ、バケモン」

「百人近くブッ飛ばしといて、息一つ上がってないんだもんな……」

「しかも、何の能力も使う事もなく、な」

「……倒せると思ってた俺達が馬鹿だったよ」

「……全く、だ」

その言葉を最後に、二人は気を失った。





「なんだよ、道が分かれてるのか」

黒人も先程三人が通った分かれ道に辿り着いた。

「……まあいいや、さっさと進むか、あの人達なら、一人でも問題無いし」

黒人は、左から二番目の道を選んだ。





「あれっ、私一人だけ?」

先程と似たような大きな部屋に出て、立ち止まった麗は周囲を見回し、今更その事実に気が付いた。

「むー、そういえば途中で道が分かれてたような……。気のせいだと思ったんだけどなー」

元来た道に振り返っても、誰も後からついては来なかった。

「ま、いっか。一番上を目指せば誰かと逢えるでしょ。えーと、出口は……」

先へと進む道は、来た道の反対側にあった。
そのまま通り抜け出来るようだ。
道を見つけ、麗は勇んで先へ進もうとした。

しかし、この大広間に、何も障害が無い筈が無かった。


「ん?」

出口に辿り着く寸前、麗の視界に、動く何かの影が入り込んだ。
そしてそれは、麗に真っ直ぐと向かっていた。

「わぁっ!」

まともな速度ではなかった。
何か長いものが麗の首に絡みつき、あっと言う間に麗を空中に持ち上げた。

「か……はっ……」

天井近くまで麗を持ち上げたかと思うと、突然、猛スピードで地面に向かって墜落する飛行機の如く地面に突っ込んだ。


城壁にヒビが入る程の衝撃が起こり、轟音と共にそれは地面へと潜って行った。

「頭から落ちたね~。こりゃ助からないね~」

地の底から声が響いた。

地響きと共に、地面から巨大な花のつぼみが生えてきた。
百合の花らしい。
茎と共に、部屋の半分程の高さまでものの十秒も経たない内に育ってしまった。

やがて、花弁が静かに開いた。


「……いっ……たぁ~……!」

むくりと体を起こし、頭を抑えながら、麗が呻いた。
目は涙で潤んでいる。

「あら~。生きてたね~。頑丈だね~。
 でも駄目だね~。頭から血、いっぱい出てるね~」

開いた花弁の中に、人間が潜んでいた。
ほっそりとした体つきをしている。寧ろやつれていると言った方が良さそうだ。
男か女かよく分からない顔をしている。声もどちらとも取れる中性的な声だ。

「イライラする喋り方ねー、お花の中に引きこもり?」

「ボクの喋り方に口出ししないで欲しいね~。それに、普段は寧ろアウトドア派だしね~」

「嘘おっしゃい。普段外に出てる人がそんな青白い顔してるわけ無いじゃんか」

「これは体質だからしょうがないね~」

男だか女だか分からないそいつは、花から降りて来た。

「申し遅れたね~、可愛らしいお嬢さん。
 ボクはアムシャ・スプンタ第七位、植物の女神『アムルタート』。
 『不死・不滅』を意味するね~」

「わざわざ自己紹介ありがと。あ~、頭クラクラする~」

「キミの名前も聞きたいね~。キミの事を教えて欲しいね~」

「アムルタート」は目を見開き、興奮した様子で話を続けた。

「キミがボクのお花の養分になればきっとお花達も喜ぶね~。
 可愛い女の子の生き血は特別栄養価が高いからね~。
 純潔な子だったらもっと良いね~」

「馬っ鹿じゃないの。そんなもので植物が育つ訳ないよ」

「キミは桜の話を知ってるかね~。
 綺麗な桜の下には、死体が埋まってるって話だね~。
 死体の血を吸ってあんなにも鮮やかな色に花びらが染まるんだってね~。
 ボクのお花達も、キミみたいな子の血を吸って、こんなにも鮮やかになったね~」

地面から蔓のような植物や、葉が大量に付いた樹木が次々と生えた。
しかし、全て、葉の一枚まで緑色は見られず、どれも紅に染まっていた。
全て意思があるように蠢いている。
紅く染まっていない植物は、「アムルタート」の潜んでいた百合の花だけだった。

「紅く染まっていないのはこの子だけだね~。それもキミの血を吸えば紅の植物の仲間入りだね~。
 他の子達もキミの血が飲みたくてウズウズしてるね~。
 内側から吸ってあげようかね~。それとも、八つ裂きにしてから飲ませてあげようかね~。
 キミは今までの中で最高の食糧になるね~」

麗は大きく息を吐き出し、血を拭った。

「教えてあげる。私の名前」

「嬉しいね~。大人しく血を分けてくれるんだね~」

無視するように、麗は話を続けた。
「『時間亡失(ロスト・エイジ) ・Nothing4th』織野 麗
 覚悟なさい。後悔なさい。この名があなたを屠るから」

「いい顔つきになったね~。いいお話を聞かせてあげたお陰だね~。
 頭の怪我、結構深そうなのに無理しちゃって。可愛いね~。
 でも、次は苦しむ顔を見たいね~。喘いで、悶えて、泣き叫んで欲しいね~」

「つくづく最低ね。いいわ、最後の一本、あんたの血で染めてあげる」

麗の顔からは、普段の明るさなど微塵も感じられなかった。








第二十四話
END


第二十五話に続く





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