第十八話
日記:黒人






午前六時半起床。
でもまだ眠いので二度寝。
昨日、杏ちゃんが一緒に寝たいと言ってきた。
夜は怖いのか?


六時五十五分、二度目の起床。
杏ちゃんはもう起きたらしい。
麗さんはまだ眠っていた。
そんなに寝相、悪いか?
ってか、女の人が寝てるのに無断で入るのは問題なのだろうか。
ようわからん。


三人で朝食を摂る。
麗さん、着替えるならちゃんと着替えてください。

何故か杏ちゃんが嬉しそうな顔をしている。
元気が出たみたいだ。
よかった。


午前九時、いつも通り適当に暇を潰しながら客を待つ。
麗さんも手伝ってくれるそうだ。
そんなに仕事がある訳じゃないんだけどなぁ。

とか考えてたらチャイムが鳴った。
杏ちゃんがいつものように返事する。





以下、依頼の内容。

草野球で人数が足りないので、
人数合わせに助っ人として来てくれ、という話。
キャンセルすればいいと言ったが、そうもいかないらしかった。

なんでも、大会だそうだ。
それで、相手が結構強くて?
なんか素人が入った程度では勝てないとか。

俺ももう野球なんて中学以来ほとんどやってないから素人同然だと言った。
言ったけど、最近近所の子どもにちょっと教えてたのを見られてたらしい。
恥ずかしい。
んで、手本で投げた球のスピードがアレだったとか。
久しぶりだったから加減を間違えたかな。

さすがに言い訳も苦しくなりそうだったので、とりあえず引き受けた。
ホントは別に断る理由も無かったけど。
毎回こんな仕事ばっかりだったら楽なのにな。
命懸けの仕事は俺はともかく杏ちゃんが心配。

あと、麗さんも試合に出ると言い出した。
一度言い出すと絶対に引き下がらないんだもんな〜。
仕方ないのでとりあえず来てもらう事にした。

杏ちゃんは応援に来るそうだ。
間違って相手チーム側の観客席に行かないように言っといた。



試合に行ってみて驚いた。
結構でかい大会じゃん。本当に草野球なのか?
本気でやってる人達の大会って感じだった。
もっと気楽なもんかと思ったんだけどな。

そういえば打順と守備位置を決めたんだっけ。
ピッチャーをしてくれと言われたが、センターにしといた。
俺は外野で走り回る方が性に合ってる。
打順は二番にしてもらった。

あと、全員が協力するように言っといた。
一人二人でやるスポーツじゃないし。





試合開始。
一回表は相手の攻撃。

そうそう、相手チームは割と強いらしい。
前回の大会でベスト8だっけ?

とにかく、ピッチャーが第一球を投げる。

ストライク。
帽子を被るのなんか久しぶりだったからちょっと気になる。

二球目。

ボール。
頭の近くはやめろって。

三球目。
ど真ん中の高め。

打たれた。

そりゃあんな甘い球を見逃す筈が無い。

バックスクリーンへのホームラン。

俺がいなければ。

ワンナウト。

柵が低いのが悪い。
そんな驚いたような顔をするな。
照れ臭い。

ピッチャーの立ち上がりがやや不安定だったが、
バックの助けもあり、なんとか無失点。

エラーの一つや二つは仕方ないって。


一回裏。
一番の人にちょっと助言。

その後、見事に出塁。

一番バッターのセーフティバントのフリはなかなか相手を焦らせるものらしい。
上手い具合に四球になってくれた。

で、俺の打順。
打席に入る前に左腕を大きく一回転させる。
ランナーがそれを確認した。
ぶっちゃけサインだった。

ピッチャー第一球。

投げた。

ランナーもピッチャーのモーションを盗み、走り出した。

それを見て、キャッチャーが立ち上がる。

読まれてた。
こりゃ簡単に刺されるな。
そう思った。


だからバントした。

まあどっちにしろ、バントするつもりだったが。
サインはバントエンドランだったから。
盗塁かと思ったようだけど、残念でした。

上手い具合に一塁線に転がった。

結局俺もランナーもセーフだった。
昔っからバントは得意なんだよな。


そんな具合に色々小細工を入れてはみたものの、
後続があまり奮わず得点0。
好打順だったのになあ。


正直、書くのが面倒臭いのでここからは要所だけ纏める。

五回の表、スクイズで一点取られる。
さすがに外野がそこまで面倒見る事は出来ない。

六回の裏、ワンナウトでとりあえず俺が塁に出る。
死球で。

三塁までこそこそ進塁。

三番の人がアウトになった後、四番の意表を突くスクイズで一点を返す。
分かり易いぐらい警戒してたもんなぁ。

八回表、2ランホームランを喰らい二点勝ち越される。

その裏の回、九番、一番がなんとか塁に出た。
一塁はヘッドスライディングより走り抜けた方がセーフになり易いモンなんだが。

で、手伝う以上負けるのもどーかと思うので一思いにスタンドにブチ込む。
つってもフェンスギリギリになるように加減する。
自分でも信じられない風を装った。
後々面倒だし。

で、最終回。

無失点に抑えれば勝ちという場面。
ストッパーに麗さん起用。
グラウンド中の人の引き攣った顔が忘れられない。

で、結果はと言うと。

三者連続三球三振でゲームセット。

あの人の能力ってこういうトコでも役立つのな。

文字通り、バットにかすりもしなかった。

俺でも、あの人に攻撃を当てれるかどうか。





まあそんなこんなで試合が終わる。
久々に格闘以外の運動をしたような気がする。
こういうのも悪くない。
軽く挨拶を済ませて帰る。

麗さんと俺と杏ちゃんで晩飯を食う。
ああ、麗さん、杏ちゃんに酒飲ませないで。
やたら弱いから。

などと言う俺の制止も無視し、麗さんは杏ちゃんに酒を飲ませる。

案の定、すぐに酔っ払ってしまった。

毎回毎回、何故酔う度に俺に抱き付くのか。

完全に酔い潰れてしまったので寝かせてやる。
無防備な寝顔だなあ。

その後、麗さんと少しだけ晩酌。
俺も飲み過ぎるとまずいので程々にしておく。

俺の場合、酔っ払って朝起きたら周囲の建物が無いなんて事があるからシャレにならない。
下手すれば「戒」が解けてしまうかもしれない。
そうなると街の一つや二つじゃ済まないから本当に注意しなければいけない。





今日はこんな所かな。

もう日記も何冊目だろうか。

全部読もうと思ったら一年位掛かるかも。

何にせよ、平和な一日だった。
やっぱ、のんびりやるのが一番だよな。








第十八話
END





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