番外編シリーズ4


 こんにちは! 麗です!
 どうもこの前説、前回の話でメイン張った人がやるみたいなんだよね。

 短かったけど作者の遅筆のせいで随分長くなった番外編も今回がラストみたい。
 クロちゃん以外のメインキャラ達は新章ではかなり出番が減るみたいだからこうやって掘り下げてみたんだってさ。
 あれ? でもリョウさんの話が無いね。
 今回は杏ちゃんの話だし、考えてないのかな? まあいっか。

 番外その4は久々登場の主人公二人の出会いのお話。なかなかハードな人生のようです。



邂逅(1)
〜崩壊[裏]〜








 空が裂ける。
 何もかもを破壊しながら彼らは行進する。
 行為に意味など無く、人間の子供が蟻を面白半分に踏み潰すのと変わりない。
 力の加減もせず、無茶苦茶に蹂躙する。
 相手の脆さなど分からずに。

 大人達はその行為の無意味さを知っている。無闇に命を奪う愚かさも。子供は違う。
 夥しい小さな命の犠牲の後で、ようやくそれを実感する。気付くのは全て終わってから。

 あまりに巨大な敵に、蟻達は成す術もなく潰されていく。抵抗を試みたところで、結果は無残なものだ。





 一人の「大人」が「蟻」の世界に降り立った。女だった。
 何故か? 子供達にお灸を据えてやるつもりで。あるいは彼女は、彼女の同胞を嫌っていた。

 降り立った彼女は、まだ成人していない若い男が一人で眠っているのを目にする。
 息苦しそうに眠る男に、彼女は興味を覚えた。欲情していたのかもしれない。

 しばらく寝顔を眺めていると、彼は目を覚まし、彼女の存在を認めるや否や敵意を剥き出しにした。
 「蟻」である彼が、彼女に恐怖しない筈が無い。それでも彼は逃げる事を選ばなかった。
 寧ろ先手を打とうと銃口を彼女の目に突きつける。
 勿論「蟻」の世界の脆い武器など、彼女の前には何の役にも立たない。 しかし、その心地よい殺気を、彼女は気に入った。そして、男の事が気に入った。

 こいつを使おう。彼女はそう考えた。



 彼女は男を自分の世界に連れて行った。壊さないように、細心の注意を払って。傷付けないように、彼を握る力を加減して。



 彼女は―――彼女達の種族は、生まれてからしばらくすると、その成長の途上で不可解な力を手に入れる。
 それは、人間達が、物体の運動の方向を作為的に変える力を持つようになるのに似て、極めて自然に、それが当然の事のように身につく。
 ある者は念じるだけで川の流れを逆流させたり、またある者は手を触れるだけで若々しい大木を一瞬にして枯らせてしまったりできるようになった。
 「人間」には到底理解も及ばない進化の過程で、それらは手に入る。

 彼女も例外ではない。しかし、彼女はそれを滅多に使う機会が無かった。必要がなかったから。

 しかし、今は絶好の実験体を手に入れた。そして、目的も。

 彼女は彼を「改造」した。





 男は、突然植え付けられた力に戸惑うが、やがて覚悟を決める。
 彼女は、何の気まぐれか、男の面倒を見てやった。
 力の使い方を懇切丁寧に教えてやり、寝食の世話をしてやった。

 自分が力を手に入れる過程のように、あまりにも自然に彼女に母性愛のようなものが芽生えていた。
 いつまでも男の面倒を見ていたいとさえ考えるようになっていた。



 しかし、男はやがて自分の世界に帰って行く。「蟻」の世界を救う為に。
 いや、ただ彼女の種族の子供達が憎くて、復讐する為かもしれない。

 彼女にとっても、目的は似たようなものであったから、それも構わないことの筈だった。
 その為に男を利用もした筈だった。
 しかし、男が去ると聞かされた彼女の胸に去来したのは、あろうことか淋しさであった。

 その感情がどういうものであるかは、子を持った親の方が良く分かる。
 子が一人立ちした時の、嬉しさと共に沸き上がる淋しさと彼女のそれは、全く同じものであった。

 それでも男は旅立つ。いや、帰ると言った方が正確である。
 強い女を演じていた彼女としても、引き止めるなど格好がつかない。

 そして、別れがやってきた。

 男との繋がりを失う事を恐れた彼女は、男の去り際、言い放った。

「いずれその力が疎ましくなり、私を恨むようならいつでも殺しに来るがいい。温かいスープを作って待っているぞ」

 それまで彼女になつこうとしなかった彼が、その時ようやくまともな返事を返した。

「ああ、いずれお前が憎いと思えば殺しに行く。鞄に収まりきらないほどの土産を用意してな」






 彼は戻って来なかった。戻っては来れなかった。
 余りの力を制御できず、取り返しのつかない事をしてしまった彼は、心に深い傷を負い、生きる気力を失っていた。

 力が疎ましくなれば自分を殺しに来いと言ったのに、何という体たらくか。
 そう考えた彼女は、しかし、浮かぶ別の思いが掻き消せない。

 彼を助けたい。彼に生きて欲しい。

 やがて彼女は、再び「蟻」の世界に足を踏み入れた。


 彼と問答する内、彼が何故自分を殺しに来ないのかを知った。
 もはや彼に憎しみは無く、力なき身に強さを与えてくれた彼女に感謝さえしていた。

 それを知った彼女の心は、もはや揺らがなかった。

「自分の能力を知ることだ」

 彼女はそれだけを伝えた。
 そして、それと同時に以前から思い描いていた事を、実行に移すことになる。

 永遠を生きるには、一人では淋し過ぎる。
 その穴を埋める事が、彼女が孤独な男にしてやれる全てであった。

 やがて、彼女は「蟻」の世界の旅を始める。





 そして、物語は紡がれる。








番外4−1 END








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