特急




歌が好き
駅で歌ってた
私と彼しかいない

ここは何処の駅?


電車が着いた
特急
かっこいい

これは何処へ向かう電車?


彼は言った
僕は乗らない
やめておくよ

「彼」って

誰?



彼を見ていたと思ったら
既に私は乗っていた
彼を窓越しに見る

電車が急に発車した
彼の姿が線になって
あっと言う間に見えなくなった

車内を見ようと思ったのに
上しか見れない
気が付けば体が自由に動かない

特急は気が付けば
トンネルを走るトロッコになっていた
とても大きなトロッコ
電車のような

陽気な声が聞こえた
終点は死後の世界となります
これは死への特急

上しか見えない

天井は最初は灰色のコンクリート
次は茶色のレンガ
その次は赤っぽい土

がくんと衝撃があった
終点に着いた
そこにあるのは無数の顔
これは今まで死んだ人?
全ての顔がはっきりと見えるのに
全ての表情が分からない
笑っている?
怒っている?
悲しんでいる?
それとも眠っている?

身動きが取れない
顔も動かせない
目を閉じる事もできない

もしかして
永遠にこのまま?

不意に間抜けな声がした
さっき聞いた陽気な声
お客さん
まだ死んでないじゃない
困ったなあ
どうしようか

私は死んではいなかった
誤って乗り込んでしまった
彼は止めてくれなかった
何故?
「彼」って誰?

歌が好きだった
死後の世界でも歌を歌った
特に意味も無いかもしれない
でも

好きだから


素晴らしい

陽気な声に歌を止める

今のは良かったよ
録音させてもらっちゃった
さあ君を帰してあげよう

いずれまた此処へ来た時
歌ってくれると嬉しいな


その声が響き終わるのと同時に
私の身体は猛スピードで逆走しだした

最初は赤っぽい土
次は茶色のレンガ
その次は灰色のコンクリート

来た時よりも速く天井の色が変わる




目を開けると
ベッドの上

天井は
真っ白な家の天井


夢だった?
そうかもしれない

ふと見た自分の掌



握られていたのは

何かを録音したであろう

カセットテープ
















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